昔、この世界には妖精やドラゴンなど幻想的な生物が住んでいた。
その生物達は人間と共存し、互いに助け合いながら生きてきた。
妖精たちは人間の為に自らの力を使い、ドラゴン達は自分達の持つ情報を人間に渡した。
その代わりとして、人間達は彼らが怪我をしたときは出来る限りの治療をし、彼らが助けを求めたときは直ぐに助けた。
しかし、その関係は長くは続かなかった。
人間達が裏切ったのだ。
人間達は妖精やドラゴンの力を奪おうとし、戦争が起きた。
そして、妖精やドラゴン達は人間の前から姿を消したのだ。
だが、戦いに狂った喜びを見出した人間達は戦いを止めなかった。
草木が枯れ、世界は荒野となった。
世界は狂気に包まれた。
そんな世界を憂いた少女がいた。
少女が流した涙は奇跡を呼んだ。
天界に住み人の前には滅多に姿を現さない神が少女の為に現れたのだ。
神は世界を想い、涙を流す少女に感動したのだ。
そして神は少女に世界を救うと約束した。
神は戦争を続ける人間の前に現れ言った。
『戦争なんて止めなさい。そんなことをするぐらいなら種を植えて草花を咲かせなさい。周りを見てみなさい。あの美しい世界は何処へ行ってしまったの?』
そう神が言って、初めて人間は周りを見た。
周りは草一本も無い。
あの美しい妖精達はいない。
人間達はその様子に涙を流した。あぁ、自分はなんて事をしてしまったのかと。
そんな人間達に神は続けた。
『過ぎた事を嘆いても仕方ありません。前を見るのです。消えていった妖精達が戻るにはどうすればいいのか、考えるのです。その時、光は見えるから』
そして人間達は持っていた武器を捨て、代わりに桑を持った。
相手を殺すのではなく、支えようとした。
そうして人間達は一歩、前へ踏み出したのだ。
「ふぅ、あの時はあの神さえ現れなければ全て何事も無くいったのだがな・・・」
暗い部屋の中で一人の男が言った。
それに男の傍にいた男よりも小柄な男が言う。
「その通りです、あの女狐さえいなければ・・・」
憎々しげに呟く小柄な男に男は笑った。
「ははは、お前も言うようになったな。・・・なぁ、この世界は明るすぎないか?」
そう突然聞く男に小柄な男は首を傾げる。突然の問いに驚いているのだ。
そんな驚きを他所に男は更に続ける。
「私はこの世界を愛している。とても美しい世界だ。私は美しいものが大好きだからな。
だが、本当の美しさは違うのではないか。本当の美しさとは一点の曇りも無い闇ではないのか?人間の汚さを包み隠さず出すのが本当の美しさではないのか。
そう私は思うのだ。・・・お前はどう思う?」
そう聞かれた小柄な男は口元に笑みを浮かべながら言った。
「私もそう思います。・・・人間は元は汚らしい存在です。人を騙し、傷付け、苦しめる。そんな自分を隠して生きていくのは本当の美しさではない、と私は思います」
そう答えると男が口元に満足そうな笑みを浮かべる。
「正にその通りだ。・・・では、そんな世界を実現させる為に我が忠実なる僕は何をしてくれる?」
そう言うと小柄な男は男の足元へ行き跪いた。
「貴方様の言う世界が実現しやすいように世界を操って見せましょう」
そう答える僕に男は楽しそうな、そして残酷な笑みを浮かべた。
これは、物語の始まりに過ぎない。
そして、終わりの始まりでもあるのだ。