カラン、と来た時と同じようにドアを開ける。
アジーマと話しているうちにもう夕方だ。
空が赤く燃えている。
「早く帰らないとね・・・」
そう言って歩き出した瞬間、クレアは何かに躓いた。
「きゃぁ!」
危うく転びかけたが何とか踏み止まった。
「一体何よ・・・」
そう言って下を見るとそこには男が倒れていた。
「・・・きゃあああああ!?」
クレアは叫びだした。
「え、い、生きてる!?まさか死んでたり・・・、ちょ、誰かお医者様!」
そう声を上げると不意に足を掴まれた。
急すぎて言葉が出なかった。
そして足を掴んでいる人物が話した。
「・・・だ、誰も・・死んで、ねーよ・・・」
そう息も絶え絶えに言うのは目の前で倒れていた人物。
クレアはまた叫び声を上げた。
「死体が話したあああああああ!!」
「だから誰も死んでねええええええ!!」
クレアに負けじと男が言うと男はう、と言って倒れこんだ。
クレアが驚いてしゃがむと男の腹から音が鳴った。
「・・・あなた、もしかしてお腹が空いてるの?」
「うるせ・・・」
それだけ呟くと男は完全に倒れた。
また大変なことになった、とクレアは思った。
私は一体何をしているんだろう。
クレアは思った。
目の前にはさっき町で出会った男。
その男は今は寝ている。
どうやら空腹だったようだ。
クレアは男の顔を覗いた。
長い前髪でよく見えないが顔は結構整って居るように見える。
髪は茶髪で、瞳は瞼に隠れて見えない。
その時クレアは誰かに似ている、と思った。
その誰かが思い浮かぶ前に目の前の人物が目を覚ました。
「あら、目を覚ましたのね。体の調子は大丈夫?」
「・・・お前、誰だ」
その目には警戒心がある。
「自分を助けた恩人に向かって誰だはないんじゃなくて?」
そう言うと男はゆっくりと体を起こした。
「それは失礼した。俺はユート。吟遊詩人だ」
「そう、私はクレア。この屋敷の次女よ」
そう言うと男は周りを見渡した。
「この屋敷の・・・?」
「そうよ。何か文句でもある?」
「いや、別に」
何よ、この態度。ムカつくわね。
そう、クレアは思った。
「まあいいわ。目を覚ましたのならここから出て行って」
「は?何でだよ」
「何でだよじゃないわ。ここは私の家。あなたは一時的に助けただけ」
「助けたんなら最後まで面倒みろよ」
なんて自分勝手な男だろう!、とクレアは思った。
「ふざけないで、どうして私が・・・」
「見捨てるならどうして俺を助けたんだよ」
「それは貴方があそこにいては私の通行に邪魔だったから!」
「邪魔だったら自分の場所だけ開けて置いとけばよかっただろう」
ああいえば、こういう。
いい加減うんざりしてきたクレアはつい本音を漏らす。
「だからあそこに貴方がいては町の人に迷惑だと思って・・・」
「へー、町の人のためかー。自分のためじゃなくて?」
「だからそうだって言って・・・」
そこまで言うと目の前の人物がニヤニヤと笑っていた。
そこでクレアは自分の失敗を悟った。
「まさか町で有名な黒薔薇が人の心配をしてるとはな、こりゃ以外だな」
「・・・はめたわね」
「何言ってんだ。勝手にはまったのはお前だろう?」
流石にそれには何も言えない。
う、と言葉が出なくなる。
「まぁこれをばらされたくなかったらな、分かってるよな?」
あぁ、私は拾ってはいけない物を拾ってしまったようだ。
「まぁ、宜しくな。クレア」
そう、男・・・ユートが言った。