あの謎の男を連れ帰って来て一週間。
あの男は今屋根裏部屋へいる。
前はカノンが棲んで居た部屋だ。
部屋を開けるとそこには思っても見なかった光景が広がっていた。
ユートはちゃんと部屋に居た。
だが、そこにもう一人、人が居たのだ。
「へー、ユート様は吟遊詩人なんですね!」
「まあな、結構有名なんだぜ?本も出してるしな」
「まぁ、どういった詩なんですか?」
「それはな・・・」
ユートが答えようとする前にクレアが遮った。
「貴方達、一体何してるの」
その声にカノンは驚いたように目を見開きユートは平然とした顔でこちらを見た。
「おぉ、クレア、来たのか」
クレアはユートを無視してカノンの方へ向いた。
「貴女も、どうしてここにいるの。ここは今使って居るわ」
あぁ、違うの。
そんなこと言いたいんじゃないの。
ただ、この男はよく分からないからあまり貴女に会わせたくないの。
「あの・・・私、外に出ますね」
そう言ってカノンは部屋を出た。
「・・お前さ、あんな言い方はないんじゃねーの」
しばらくしてユートが言った。
「・・・うるさい」
「あーあ、カノンちゃん泣きながら出て行っちまったよ。お前、そんなことばっか言ってるから黒薔薇なんて呼ばれ」「うるさい!」
ユートの言葉を遮って大声で言った。
「だって、仕方がないでしょう!?どんなに言葉を言っても気付くと違う言葉に変換されてる!
本当はこんなこと言いたくないのに!
仕方ないじゃない!私だってこんなのこと言いたくないわよ!」
そう言うと目から何かが零れてきた。それが涙だと気付くのはユートが目尻に手を伸ばしてきたからだ。
ユートは涙を拭いながら言う。
「だったらそれをカノンちゃんに言えばいいだろう。今まで言ってきたのは本心じゃないって」
まるで子供に諭すように言う。
その声が、言葉が、あまりに優しかったから私はつい、小さく頷いてしまった。
「よし、じゃあ謝りに言って来い」
そう言われると同時に私は走り出した。
カノンが居る場所は分かっている。
きっと庭だ。
あの子は何かあるとよくあの庭に行くから。
そう思いながら庭に走ると案の定カノンがそこに居た。
「カノン」
カノンがこちらを見た。
だが目線は下を向いている。
クレアは少しカノンに近づいた。
そして頭を下げる。
「ごめんなさい」
そう、カノンに向かって言った。
カノンは驚いたように顔を上げる。
やった、やっと言えた。ずっと伝えたかった言葉。
「あの、なぜ謝るんですか?」
カノンが不思議そうに聞いてきた。
「だって私は、貴女をたくさん酷い言葉で傷つけたから・・・」
そう言うと更にカノンは困惑したようだ。
だがクレアは構わずに続けた。
「私、昔からそうなの。自分が思っていることとは全く違う言葉が出ちゃって。
それでたくさんの人を傷つけてきた。それで気付くと私は一人だった。
だから・・・」
「だから、人と触れ合うのが怖くなった?」
言おうとした言葉を言われた。
クレアは頷いた。
するとカノンはよかった、と呟いた。
何がよかったなのだろう?
疑問の目を向けるとカノンは笑いながら言った。
「私、ずっとクレアお義姉様に嫌われていると思っていたんです」
そう言われクレアは慌てて違う!と言った。
するとカノンは頷いて続けた。
「えぇ、だから今、違うと分かって凄い嬉しいんです」
そう言ってカノンはこれで仲直り?ですね、と花の様な笑顔を浮かべながら言った。
その笑顔に釣られてクレアも笑った。
ようやく分かり合い、今は二人で花壇の花に水をやっている。
上機嫌そうに鼻歌を歌っているカノンにクレアはおずおずと切り出した。
「あの、カノン・・・その、ユートのことなんだけど・・・」
お母様や姉さまには言わないで、と言おうとしたら承知している、というようにカノンが言った。
「安心してください。誰にも言いません」
そう言われクレアはホッと胸を下ろす。
そんなクレアに向かってカノンは更に続けた。
「それにしても知りませんでした!クレアお義姉様にあんな素敵な恋人がいらっしゃるなんて!」
「・・・え?」
「私、何があってもクレアお義姉様の味方ですから!」
・・・あれ、この子何か勘違いしていない?
そう思ったクレアだった。