Regulus

  • TOP
  • GALLERY
  • LINK
  • Twitter




それは真実を映す鏡(映るのは私の気持ち)


ユートがいなくなって一週間が過ぎた。
その間、クレアは忙しかった。
ユートがいなくなった次の日にクレアはリュートに言った。
“王子と結婚する”と。
その後は大忙しだ。
まず、ドレスを仕立てた。
次は結婚式の打ち合わせ。
王族に対するマナー。
だが、クレアが頑張っても王子がクレアの前に現れる事はなかった。
それでもクレアは頑張った。
そして一週間が過ぎたのだ。
結婚式はあと三日後に迫っている。
普通の女だったら迫る結婚式のことや、その後の事を考えるだろう。
だが、クレアの心を占めているものはユートだった。

クレアは空いた時間を見計らって庭に出た。
カノンが育てた花が綺麗に咲いている。
真っ直ぐで綺麗だな、とクレアは思った。
まるでカノンのようだ。
とても純粋で優しいカノン。
その心の美しさでカノンは王子様と結婚した。
自分も同じように王子様と結婚する。
でも、きっと自分はカノンのような花は咲かせられないだろう。
だって自分は自分の気持に嘘をついている。
意地を張って結婚すると言ってしまったが本当は結婚したくない。
だってそうでしょう?
結婚は愛するもの同士がするものだわ、とクレアは思った。
そこまで言ってクレアは自分の気持ちに気付いた。
あぁ、私、

「ユートが、好きなのね」

言葉にすると涙が出てきた。
あぁ、私はどうしてこんなに気付くのが遅いのだろう。
もっと早く気付けばユートも出て行かなかったかもしれない。
こんな結婚せずに済んだかもしれない。
後悔が後からどんどん出てくる。
もう涙は止まらない。
庭の隅で泣いていると後ろに人の気配がした。
後ろから声を掛けられる。


「どうして泣いているんだ?黒薔薇姫」
その声は聞いた事がある声だ。
クレアは振り向いて驚いた。
「アジーマさん・・・」
そう言うとアジーマは片目だけ瞑って見せた。
クレアは困ったように顔を伏せた。
だがアジーマは続ける。
「悲しいのかい?望まない結婚をすることになって。自分の気持ちに気付いて後悔しているのかい?」
そう言われクレアは顔を上げた。
アジーマには結婚のことは言っていないはずだ。
「どうして・・・」
そう聞くとアジーマは笑いながら言った。
「私は何でも知っているよ」
そう言うとアジーマは自分の懐から棒を取り出し横に振った。
するとアジーマの周りに淡い光がいくつか灯った。
その光の真ん中には様々な物が浮いている。
ドレスに硝子の靴、花の種。他にもたくさんの物がある。
その光景を見てクレアは思わず「魔法、」と呟いた。
アジーマはその呟きを無視し続ける。
「今君に必要なのは硝子の靴かな。それとも綺麗なドレス?全部違うね。今君に必要なのは・・・」
話しながらアジーマは一つの光の中に手を入れた。
そして、取り出す。
「これだね」
それは鏡だった。
周りは金の装飾が施されている。
美しいとクレアは思った。
アジーマはクレアに鏡を差し出す。
クレアは手に鏡を持った。
「これは“真実の鏡”だよ。これには真実しか映らない」
クレアは鏡を覗きこんでみた。
そこには映るはずのクレアの顔がない。
「問い掛けてごらん。自分の気持ちを」
「私の・・・気持ち・・」
震える声で呟くと鏡の中心が小さく揺れそのまま波紋が広がる。

そこに映ったのはクレアと、ユートだ。
二人はお互いの顔を見て笑みを浮かべていた。
クレアは驚いたように目を見張る。
アジーマは笑みを浮かべながら更にクレアに言った。
「それが君の気持ちだよ、クレア。君は今、彼の傍に居たがっている」
そう言われるとクレアはアジーマに視線を向け聞いた。
「私は一体どうすれば・・・」
そう問うとアジーマは「さあね、」と答えた。
アジーマは更に続ける。
「その後は君が頑張らなきゃ。私は関わっちゃいけない。私はただ、手伝いをしてあげるだけだからね」
そう言って更に進もうとするアジーマをクレアは止めた。
「待って、アジーマさん!」
そう言うとん?と言いながら振り向く。
「カノンを助けたのは、もしかして貴方?」
そう聞くとアジーマは人のよさそうな笑みを浮かべ頷いた。
するとクレアは頭を下げた。
「ありがとう、アジーマさん。カノンを幸せにしてくれて」
そう言うとアジーマは驚いたように目を見張りそして、笑みを浮かべた。
「言っただろう?確かに私は彼女を助けたが幸せにはしていない。彼女が幸せなのは彼女自身の力さ」
そう言ってアジーマはクレアに背を向け最後にこう言った。

「君も、自分の力で幸せを掴み取るんだ」
そして、アジーマはその場から消えた。
クレアを残して。




Back * Novel Page * Next
Back to top

Design by air * Material by 青の朝陽と黄の柘榴