ユートがいなくなって一週間が過ぎた。
その間、クレアは忙しかった。
ユートがいなくなった次の日にクレアはリュートに言った。
“王子と結婚する”と。
その後は大忙しだ。
まず、ドレスを仕立てた。
次は結婚式の打ち合わせ。
王族に対するマナー。
だが、クレアが頑張っても王子がクレアの前に現れる事はなかった。
それでもクレアは頑張った。
そして一週間が過ぎたのだ。
結婚式はあと三日後に迫っている。
普通の女だったら迫る結婚式のことや、その後の事を考えるだろう。
だが、クレアの心を占めているものはユートだった。
クレアは空いた時間を見計らって庭に出た。
カノンが育てた花が綺麗に咲いている。
真っ直ぐで綺麗だな、とクレアは思った。
まるでカノンのようだ。
とても純粋で優しいカノン。
その心の美しさでカノンは王子様と結婚した。
自分も同じように王子様と結婚する。
でも、きっと自分はカノンのような花は咲かせられないだろう。
だって自分は自分の気持に嘘をついている。
意地を張って結婚すると言ってしまったが本当は結婚したくない。
だってそうでしょう?
結婚は愛するもの同士がするものだわ、とクレアは思った。
そこまで言ってクレアは自分の気持ちに気付いた。
あぁ、私、
「ユートが、好きなのね」
言葉にすると涙が出てきた。
あぁ、私はどうしてこんなに気付くのが遅いのだろう。
もっと早く気付けばユートも出て行かなかったかもしれない。
こんな結婚せずに済んだかもしれない。
後悔が後からどんどん出てくる。
もう涙は止まらない。
庭の隅で泣いていると後ろに人の気配がした。
後ろから声を掛けられる。
「どうして泣いているんだ?黒薔薇姫」
その声は聞いた事がある声だ。
クレアは振り向いて驚いた。
「アジーマさん・・・」
そう言うとアジーマは片目だけ瞑って見せた。
クレアは困ったように顔を伏せた。
だがアジーマは続ける。
「悲しいのかい?望まない結婚をすることになって。自分の気持ちに気付いて後悔しているのかい?」
そう言われクレアは顔を上げた。
アジーマには結婚のことは言っていないはずだ。
「どうして・・・」
そう聞くとアジーマは笑いながら言った。
「私は何でも知っているよ」
そう言うとアジーマは自分の懐から棒を取り出し横に振った。
するとアジーマの周りに淡い光がいくつか灯った。
その光の真ん中には様々な物が浮いている。
ドレスに硝子の靴、花の種。他にもたくさんの物がある。
その光景を見てクレアは思わず「魔法、」と呟いた。
アジーマはその呟きを無視し続ける。
「今君に必要なのは硝子の靴かな。それとも綺麗なドレス?全部違うね。今君に必要なのは・・・」
話しながらアジーマは一つの光の中に手を入れた。
そして、取り出す。
「これだね」
それは鏡だった。
周りは金の装飾が施されている。
美しいとクレアは思った。
アジーマはクレアに鏡を差し出す。
クレアは手に鏡を持った。
「これは“真実の鏡”だよ。これには真実しか映らない」
クレアは鏡を覗きこんでみた。
そこには映るはずのクレアの顔がない。
「問い掛けてごらん。自分の気持ちを」
「私の・・・気持ち・・」
震える声で呟くと鏡の中心が小さく揺れそのまま波紋が広がる。
そこに映ったのはクレアと、ユートだ。
二人はお互いの顔を見て笑みを浮かべていた。
クレアは驚いたように目を見張る。
アジーマは笑みを浮かべながら更にクレアに言った。
「それが君の気持ちだよ、クレア。君は今、彼の傍に居たがっている」
そう言われるとクレアはアジーマに視線を向け聞いた。
「私は一体どうすれば・・・」
そう問うとアジーマは「さあね、」と答えた。
アジーマは更に続ける。
「その後は君が頑張らなきゃ。私は関わっちゃいけない。私はただ、手伝いをしてあげるだけだからね」
そう言って更に進もうとするアジーマをクレアは止めた。
「待って、アジーマさん!」
そう言うとん?と言いながら振り向く。
「カノンを助けたのは、もしかして貴方?」
そう聞くとアジーマは人のよさそうな笑みを浮かべ頷いた。
するとクレアは頭を下げた。
「ありがとう、アジーマさん。カノンを幸せにしてくれて」
そう言うとアジーマは驚いたように目を見張りそして、笑みを浮かべた。
「言っただろう?確かに私は彼女を助けたが幸せにはしていない。彼女が幸せなのは彼女自身の力さ」
そう言ってアジーマはクレアに背を向け最後にこう言った。
「君も、自分の力で幸せを掴み取るんだ」
そして、アジーマはその場から消えた。
クレアを残して。