「クレア、綺麗よ!」
そう言うのは母。姉はその横で羨ましそうに私を見ている。その横にカノンがいる。
その言葉を嬉しく思いながら口から出るのは「別に、お世辞はいらないんだから」という可愛げのない言葉。
3人の前には純白のウエディングドレスを着たクレア。
クレアは今日結婚する、予定だ。
正直言うとクレア自身まだどうするか迷っている。
心はユートと一緒に居たいと、言っている。
だが、相手は王子だ。結婚したら一家が安定するのは間違いない。
だからクレアはまだ決断できないのだ。
そう悩んでいるうちに時間が来た。
王子は未だ姿を見せない。
(こうなったら王子様次第よ!)
そう思いながらクレアな式場へと向かった。
式場にはたくさんの人が居た。
普段だったらその人数に驚くだろう。
だがクレアが一番驚いたのは王子の姿だった。
(どうして仮面を付けているのよ!?)
王子は顔に銀の仮面を付けその素顔を隠していた。
クレアは一気に不安になった。
王子がクレアの方へ来て、クレアの手を取った。
その手には手袋がしてあり、温もりなど感じられなかった。
思わずクレアはその手を払いのけた。
会場全体がざわつく。
が、クレアはそんなのおかまいなしだ。
どうして気付かなかったのか。
無理だったのだ。あの人を忘れるなんて。
ほんの少ししか一緒に居なかったがそれでも心の奥底に居る。
あの人以外結婚するなんて考えられない。
「ク、クレア様!何をしているのですか!」
近くの神官らしき人物が声を掛ける。
その声にクレアは前を向きはっきりと会場中に響くような声で答えた。
「私、リューク様とは結婚出来ません」
会場が静まり返る。
その静寂を破ったのは王子だった。
「何故ですか」
その声は機械を通したように無機質だった。
その声にも驚かずクレアは答えた。
「残念ながら私にはもう想い人が居ます。それなのに他の人と結婚するなんて考えられません」
そう答えると王子は更に聞いた。
「じゃあその想い人が貴女と結婚しないと言ったらどうされるんですか?」
そう聞かれるとクレアははっきりと答えた。
「でしたら一生独身でいる覚悟です」
そう答えると更に周りがざわついた。
いまどき結婚しない娘は希少だ。
だからだろうか。王子はその答えを聞くと腹を抱え笑い出した。機械のような声が耳障りだった。
思わずクレアは眉を寄せる。
王子は笑いを押さえクレアの方を見た。
「でしたら尚更・・・」
そう言いながら王子は仮面に手を掛けた。
「俺が貰ってやらねーとな」
その声は聞いた事がある声だった。
クレアは目を見開いた。
そのまま震える声で呟いた。
「・・・ユート?」
その問いのような声にユートいや、リュークは頷いた。
「おう」
そうリュークが答えるとつかつかとクレアがリュークに近づいた。
そのままリュークの頬を叩いた。
全員が目をむく。リュークも驚いたようにクレアの方を見た。
クレアの目には涙が溜まっていた。
クレアが視線などものともしないでリュークに言った。
「この馬鹿!一体何が王子よ!急に消えたと思ったら王子ですって!?ふざけないでよ!」
そう言うクレアにリュークは何を言えばいいか分からないようだ。
「貴方が居なくて私がどんな思いだったか・・・」
途中でクレアの言葉が途切れた。
リュークが見るとクレアは涙を流していた。
その様子をリュークは少し呆れたように、でも嬉しそうに笑った。
「悪いって。少しお前をビックリさせたかったんだ。それがこんな結果になって・・・悪いな」
そう言うリュークにクレアは鼻を啜りながら答えた。
「本当、よ。責任、取りなさいよね」
そう言うクレアにリュークは笑いかけながらその場に片膝を付いた。
そしてクレアの手を取りながら言う。
「クレア、どうか俺と結婚してくれませんか?」
そう聞くリュークにクレアは笑いながら「はい、」と答えた。